「売文・アイテム一覧」へ


なぜ「回転」が必要なのか 


 日本には英語が作る言語的磁場がない



 小学館文庫、「英語どんでんがえしのやっつけ方」の元になっているのは、素読舎発行の「英語のやっつけ方」という小冊子です。小学館文庫にも、素読舎版「英語のやっつけ方」にも、「回転読み」のことが書かれています。

 「回転読み」は、一つの文を繰り返し繰り返し言い続ける読み方のことです。これは私が十九歳のときに見つけた方法です。十九歳のときにみつけ、五十歳になろうとしている今日まで、ただこの方法一つだけを実行してきました。

 これが単なる「繰り返し読み」と違うのは、「回転」を成立させることによって、英語のイントネーションやリズムを獲得し、普段日本語をしゃべっている口の動きから、英語の音韻構造にとって余計な「母音」を削り取ることができることにあります。

 私が書くものの中には、「音づくり」という語が多発していますが、「回転読み」という読み方は「音づくり」そのものです。「回転読み」を行うことがそのまま「音づくり」になります。そして、「音づくり」の「音」とは、「通じる音」のことです。

 日本人が「音づくり」をはっきり意識しないで英語を読む(言う)ことを続けると、「通じない音」ができてしまう傾向が強いのですが、この「通じない音」が学校の授業では通用しています。これが困った問題です。

 学校の授業であれ、予備校の授業であれ、塾の授業であれ、英会話学校であれ、先生がどれほど発音がいいかとか、先生がどれほどぺらぺらと英語をしゃべるかということはまるで本質的な問題ではありません。本質的なことは、どれだけ生徒に英語の力をつけることができるかというところにあります。
 先生の口がどれほどなめらかに英語をしゃべっても(読んでも)、その動きが生徒の口の動きとして実現しないのであれば駄目なのです。生徒に何を持たせることができるか、それだけが本質的な問題です。

 あくまで「生徒の」口の動きとして、「通じる音」を実現すること。
 この一事が、日本の学校ではまるでおろそかにされてきました。そして、「通じない音」が授業でまかり通ってきたのです。

 もしも、あくまで生徒の口の動きとして「通じる音」を実現しようとするなら、文部省が決めている英語のカリキュラムは一歩も身動きができなくなるでしょう。中間テストや期末テストなどという、やらずぶったくりで、おためごかしの「制度」はただちに壊れるでしょう。

 例えば、中学一年の三学期頃には現在進行形を扱うというような予定は、日本全国津々浦々でほぼ予定通り行われていますが、ひとたび、教室の生徒の一人一人の口の動きを「通じる音」にしようとしたとたんに、そんな予定はまるで成り立たなくなります。
 現在は、生徒の音のほとんどが「通じない音」のままで、文法的知識が説明されています。ここに日本の学校英語が駄目だと言われていることの根があります。

 生徒の口の動きとして「通じる音」を実現するのは、実は学校の授業という形態では無理があります。これは、一対一で、生徒と向き合いになり、実際の英文を読んでいる「その場」で、行わないとなかなかできません。
 学校の授業という形態では無理があるものの、少なくとも週に一回程度は、「音づくり」専用の授業と設けることをしないと、英語の音は英語マニアや英語フリーク達だけのものになってしまい、一般の日本人に根付くことはないでしょう。この「音づくり」専用の授業では、生徒たちが出す音の問題点をただちにその場で指摘し、簡潔に舌や歯は唇の位置を指示することが授業の内容になるはずです。特定の音を出すのに唇をどの形にするのかとか、舌をどこへ持っていくのかなどを「その場で」的確に簡潔に言うことです。

 舌の位置や唇の形などは、絶対に単語レベルで練習するのでは駄目です。あくまで、いつも文全体を扱う必要があります。日本人の英語の音が「通じない」のは、「発音問題」という馬鹿なペーパーテストをやって、実際に生徒の口の動きを作る方法を持たない学校に問題があるからです。

 単語レベルで発音というものをとらえているかぎり、決して英語のイントネーションやリズムは生徒のものになりません。個々の発音がわかっていても、それを並列して個々に発音していたら、決して英語のイントネーションもリズムも備わりません。日本人の英語のほとんどがゆらゆらと「盆踊りを踊る」のはそのせいです。

 英語のイントネーションもリズムも、本来は具体的な英文そのものに内在しているものではないかと長いこと考えてきました。舌や歯や唇の位置関係を、単なる知識としてでなく、生徒と一対一で向き合い、問題のある口の動きを「その場で」ただちに指摘し、「通じる音」にするにはどこをどう動かせばいいのかを、やはり「その場」で簡潔に指示することが必要です。これをやっていれば、私がやっている週に一回、一回三十分ほどの「電話でレッスン」というレッスンでも、一年後には見違えるほど英語らしい(通じる)音が生徒の口に実現できます。これはすでに実証済みです。そして、これこそが学校がやってこなかったことなのです。

 「技法グラウンド」という方法は、実に単純な原理でできています。
 私が一回読んだ英文を、生徒さんが「同じ調子」で五回繰り返し言うというのがその実質です。
 これで、生徒さんが「一人になって」、激しく「回転読み」に入るための基礎ができます。「音づくり」という一領域だけを見ても、基礎というものが必要です。
 「技法グラウンド」で基礎を得て、それを一人で行う「回転読み」に持ち込み、鍛え込むということがなされれば、生徒さんの音はどんどん変わっていき、「通じる音」になっていきます。

 「技法グラウンド」と「回転読み」は、自転車の二つのタイヤみたいなもので、片方だけではなかなか「音づくり」が進みません。片方だけやっている生徒さんは、二つあるタイヤのうち一つがパンクしている状態で自転車をこいでいるようなものです。

 いずれにせよ、具体的な英文自体に内在しているイントネーションやリズムを、生徒さんの口の動きとして実現するための方法が「技法グラウンド」であり、「回転読み」です。

 「回転読み」の「回転」がなぜ必要なのでしょうか。
 日本には英語という言語が作る磁場が存在しない。
 これが根本の理由です。

 「回転読み」の回転ということが実現しないと、日本人の体に英語のシンタックスはなかなか根付きません。根付かないどころか、やったそばからどんどん錆びつき始めるのが日本で作る英語力の宿命です。
 質のいい「回転読み」ができれば、その文は長く体に残り、次第に無意識化されていきます。
 文まるごとが無意識化されること。その課程によって、量としても獲得され続けること。この労働が継続されない限り、日本でまともな英語力を作ることも、作った英語力を維持しつづけることもできません。

 英語が鉄だとすれば、日本語はそれを錆に変えてしまう強力な酸です。
 「回転読み」は英語に対する日本語の酸の強さをとことん意識して考案されたものです。

 この日本語と英語の間の絶対的な関係を、学校の授業は方法論としてまったく繰り込めていません。

 「回転読み」は学校的方法へのアンチテーゼであると同時に、英語の磁場を欠いた場所で日本語の酸の強さに抗することのできるおそらく唯一の方法だと考えています。

 日本語にとりまかれ、日本語を使いながら生きている人は絶対的に英語をやるには不利なのです。日本で英語を錆びさせないでいる人のほとんどは、どんなに小型(英語ネイティヴの人との夫婦関係や恋人関係など)であっても、なんらかの英語の磁場を持っている人がほとんどです。

 「回転読み」は激しく行うならば、英語の磁場を欠いた場所でも、英語を錆びつかせないでおくことができます。現に、私と私の妻は、英語圏に住んだこともなく、普段の生活は日本語で生活しながら、英語を使う場面に至ればこと足りる程度の英語は維持できています。元にあるものは、「回転読み」の「回転」という動きだけです。

 現在、私の生徒さんには、高校の英語の先生や塾の英語の講師をやっておられる方がいらっしゃいます。外資系の企業の社員の方もいらっしゃいます。私より発音のいい(英語ネイティヴの人に近い発音の)方もおられます。しかし、「通じる音」という観点から見れば、発音がネイティヴに近いかどうかが本当の問題ではありません。
 この方々にとっては、音と意味が同時化するかどうかが本当の課題です。

 「回転読み」は坩堝です。
 練習が激化されれば、ぐつぐつと煮えくり返るような熱が生じます。
 その時に、音と意味が同時化されていきます。
 英語の読みが上手な人でも、この音と意味を同時化する練習はあまりやっていません。

「回転読み」は、初級から中級の方、あるいは中級以後の方で、生徒さんを持っておられる方に是非知ってほしい方法です。

 生徒さんを持っておられる方は、自分の英語を錆びつかせないことは前提ですが、それ以上に生徒さんの口に「通じる音」の口の動きを実現することが重要な問題です。ご自分で「技法グラウンド」のレッスンを受け、そこで獲得された基礎を「回転読み」の中で鍛え込むということをやっていただくことで、ご自分の生徒さんに向けての練習方法のアドバイスはまるで違ったものになるでしょう。

 再説します。
 「回転読み」の「回転」がなぜ必要なのか。
 日本に、英語が作る言語の磁場が存在しないからです。
 根本の理由はそれです。



(「音づくり」に関しては、「音づくり再説」をお読み下さい。<リンク>

(「知識(理解)の圧縮」については、「リスニング成立の可否」をお読み下さい。
  <リンク>



「売文・アイテム一覧」へ