Eliot 様
授業で生徒に吹き込ませたテープお送りいただきありがとうございました。
さきほど聞いてみました。
すごいうまい生徒が3人いますね。
生徒全員の音の全体で、90パーセントくらいがアンダスタンダブルな音です。これを学校の教室で実現したことはすごいことだと思います。おそらく、現在の日本で最高レベルの授業だと思います。現在の日本の学校では、このレベルの授業をやっているところは、1パーセントあるかないかでしょう。
Eliot さん自身の音を聞いて、この音で語学教材を日本人用に作るべきだと思いました。
アメリカの派手で崩れた音より、Eliot さんの音で語学教材を作る方が日本人ははるかに英語の音がよくなると思います。私は鍛え込まれた日本人の英語の音の方が、アメリカンネイティヴの音よりずっと好きです。アメリカ英語の音を聞いていると、おいおい、どこまで崩してどこまで標準づらをするつもりだい?と言いたくなるときがあるのです。
ここまで崩して、ここまで標準づらをするか?と思うのです。Eliot さんは、崩れたアメリカ英語しかしゃべれないアメリカ人に、発音指導をすべきだと思いました。
お送りいただいたテキストを自分で読んで、女房に聞いてもらいました。
Eliot さんの音の方が、「抜けてる」という感想がありました。
「抜けてる」というのは、例えばトランペットなどを練習する場合、初めは濁った音しか出せないが、練習があるレベルに達すると、音が急に澄んできます。このことを音が「抜ける」と言います。私は学生の頃、皆さんご存知の村上春樹さんとジャズ喫茶でバイトをしていたことがあります。その当時は、私は年がら年中不機嫌で、村上さんは早稲田の先輩なのに、村上さんに何か話しかけられても、たいていはふてぶてしくもぶっちょうづらをしていました。村上さんは、小太りの背の高くない人ですが、すらりとしたきれいな女の人が、あっしらがバイトしていると店によく来て、それが村上さんの彼女だったのです。それがあっしには面白くなかった。村上さんの奥さんという人が写真をとりますが、写真の感じから推測するだけですが、あのすらりとした人と村上さんは結婚したんじゃないかと思います。当時は、後にあんな偉い小説家になるとは思ってもみませんでしたが、このジャズ喫茶でときどきやるライブで、スイング・ジャズを聴いていたとき、村上さんが、
「あの人のサックスの音は抜けてる」
と言ったことがありました。その「抜けてる」です。
「だいたいが、お父さん(私のことです)の音は、日本語をしゃべってももごもごしていて聞き取りにくいんだけど、お父さんの英語の聞き取りにくさは、お父さんの日本語の聞き取りにくさと同じくらいだよ」
それが女房が言ったことです。ほめられているんだか、けなされているんだか。
唇の厚い黒人の英語は、妙にもったりとした感じになります。白人でも、太った人の英語はもったりします。たぶん、私の英語ももったりしています。私は南洋の血が絶対に混じっていて、頭は天然パーマで、唇は厚くて柔らかいです。英語のように破裂音が多い言語では、唇が厚くて柔らかいのは発音上不利です。練習すれば、アンダスタンダブルな音は作れますが、作れるんですが、作れて、その上、チビです。(これは発音には関係ないか?)
くやしかったから、唇が厚くて柔らかいのは、英語の音づくりには多少不利だろうが、S・Xのときはいいんじゃないかと酔っぱらったついでに女房に言ってみました。
女房はもじもじしていました。ああ、くやし。
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